地方都市のリストラ

三泊四日の出張で、10人以上の方のキャリア相談にあずかってきた。。
対象は40歳代後半が2名、そのほかは50歳代半ばの方たちだ。
そのうち10名は女性で、寡婦となった方も少数いたが、
ほとんどは主婦である。

この街の産業は少なく、
訪れた大手企業の工場は、この地域の雇用を大きく支えてきた。
ここ数年、業績が悪化し、
数年前から中高年の選択定年制を導入。
毎年数名ずつの早期退職者をだしてきたが、
いよいよ今年、大々的な早期退職策を打ち出さざるを得なくなった。

従来以上の割り増し退職金、
再就職支援サービスというのが、企業としての最大限の条件であり、
これ以降、これほどの条件はおそらく出せないだろうというのが、
その説明に付け加えられている。

こうした説明を受けて、
三者であるキャリアカウンセラーへの相談の機会が設けられたわけである。


地域により大きく異なる生活環境


ここ数年間の企業の施策は、相談にこられた方々に少なからず、
心の変化を及ぼしてきた。
『いままでに比べ、かなりよい条件が出ているのだから、今回は覚悟する必要があるな、・・』というのが大方の感想だが、
『ここ数年、すでに何回も早期退職の提案を受けてきたが、まだ踏ん切りがつかない。どうしたらいいのか・・・』と、迷い続けている方。
『何回計算しても、今くらいの収入がなければ生活ができない。だからこのまま続ける。でもまたこうした勧奨をうけるとなると、・・』
という深刻な悩みは、世帯主である男性に共通した悩み。
『そろそろ退職を考えていた矢先なので、とてもいいタイミングなので喜んでいます』
『60歳までは勤めたいと思っていたので、計画が狂った。通勤が近く、これだけの収入が確保できる仕事はあるのかが、心配』
というのは女性に多い悩みだった。

一般的な傾向だと思うが、
都心比べ、地方都市は子供の数が多い。
今回は子供の数は3人という方が、とても多かった。
そしてかなりの割合で大学に進学させている。
それも東京や大阪をはじめとする、大都市が多い。
仕送りは一人20万円という声が多かったので驚いた。
おそらく賞与を含めた大半を子供の教育に当てているはずだ。

生活費が低く押さえられる環境とはいっても、相当な教育係数の高さだ。
少子化が進む都心では住居費、物価などから、子供の数は世帯平均で2を割るはずだ。
先々のことを考えれば、子供の数を制御せざるを得ない。
それに対して、地方ではまだ余裕がある。
一方で、かつての日本経済を牽引してきたエネルギーが、まだまだ余熱として残っているといってもいい。
それは、面談のやり取りの中で、主婦である母親だけでなく、相談の中に、姑もからだが続く限り働きに出るものだという生活習慣が色濃く残っていることが伺えたからだ。
『いまの仕事をやめても、まわりの目があるから、家にいるわけにはいかない』のだ。
純粋な主婦業というのは、ここには存在していない。
しかも、土曜、日曜の休みには、普段手をかけられない田畑仕事に精を出す。
こうした勤労の風習が、根強いのだ。


都市周辺から遅れたリストラの波


こうした勤労から得た収入をぎりぎりまで教育に向ける生活が、
いま大きく脅かされている。
大都市周辺で活発だったリストラの波が
いよいよ地方都市にも押し寄せ、いまやその真っ只中にあるからだ。
大企業の工場は、まず大都市周辺から地方都市へ。あるいは一長足に海外への移転を進め、ほぼその再構築が終了しつつある。
それがいまでは土地も人件費も安価だった地方都市がその対象になっている。
ただ今回のそれがさらに厳しいのは、
周辺にその労働力を吸収できる代替可能な産業がほとんどないことである。
また労働条件も、大企業傘下の工場に比べ、はるかに劣る。
当然、産業の種類も少なく、選択の余地がほとんどない。

これらは、いままでの地方都市の生活スタイルを大きく変えるだろう。
それは家族構成や子供の数、教育などに影響を及ぼし、
ひいては、日本の国力の衰退にもつながりかねない。
少子化が地方にも及び、その子供たちが、大都心に集まらず、地元に定着する割合が増えてきたとしたら、いわゆるフリーターの増加にもつながる。
大学で学んだこと、培ってきた夢が、地元でかなえられないとしたら、
勤労の熱は急速に冷えていく恐れがある。


状況の予測と選択肢の拡大こそ、不可欠では


こうした状況下でも、着々と全国のリストラは進んでいく。
こうした中で、個人が考え、すべきことはなんだろう。

現在の生活から、危機感は急速に薄れてきている。
飽食の時代という言葉は好きではないが、
今回の地方でのキャリア相談を経験して、それを痛感した。

いま考えるべきは、今後の時代の変化の予測であり
それに対する正面からの取り組みでなないか?
オーバーかもしれないが、
かつて日本では集団就職という労働力の大移動を経験している。
これは見方を変えれば、もっとも労働力の投資効果が期待できる
大都市への投資行動といえる。
それは高度成長という大きな成果をもたらし
その果実が、今日に至り、そして飽食という『健全な危機感の衰退』に及んでいる気がする
。いま将来の希望、目標が薄弱となり、行動の低下につながっている。

確かに一方では、ITバブルや優れた研究者、エンジニア、ビジネスマンを産んでいるが、
それは国レベルで見たときに、
その総エネルギーは増えているのあろうか、減っているのだろうか?