あるエンジニアの独立宣言・その背景

40歳代後半のエンジニアが、独立するか、再就職するかに長い間悩み、このたび独立を決めた。
通信関係のエンジニアで、数種類の資格を持ち、英語も堪能。
年齢も40歳代なので、選択肢は十分にあった。

当初は、独立のリスクや、お子さんが小さいなどのため、
こちらとしては安定的な就職の選択を重要視していた。
しかし、なかなかご本人は決断せず、どっちつかずの状態が続いていた。

そんな時、知人のネットワークで情報が入った。
外資系企業から、コンサルタントとして契約しないかという提案である。
詳しくお聞きすると、企業自体は大手であり、仕事内容も今まで経験したものに近い。
報酬も通常に考えれば、かなり効率がいい条件で提示されたという。

問題は業務契約のため、その契約がいつまで続くかということと、
条件がいいといってもそれだけでは十分ではなく、
他の業務を獲得することが出来るかどうかという2点があった。

この話の過程で、理解できたのは、
『企業にいると、技術的にいやな仕事、面白くない仕事でもやらなくてはいけない。
今までの仕事内容には満足していたが、いつ何時、そうした状態になると限らない。
適性でそうなるのであれば、しょうがないですが、組織にいると違う論理で決まることが多いでしょう。
それがいやなんです』ということだった。

たしかに、技術の分野ではこうした話を聴いたことがあった。
たとえばコンピュータ技術者でも、
オフコンからPCへの転換期に、
たまたまオフコンの技術者で成果を挙ていたために、
PCへのキャリア・シフトがままならず、40歳半ばまでオフコンを担当することになった。
その結果、オフコン市場が縮小し、再就職を余儀なくされてしまった』
という話だ。

こうした話は、何も先端的な分野だけでなく、製造現場でも同時に起きている。
ワープロの製造ラインで30年をすごし、生産中止とともに、早期退職に応じた人。
原子力発電所のプラントエンジニアだったが、大型プラント案件が激減によって、
つぶしがきかなくなり、リストラにあった人。
現在、早期退職を選択した人には、少なからず、環境変化、事業変化の際に
自分だけが対応できにくくなっていたという構造が多い。

だから、
『いままで取り組んでいた仕事も、一年もしないうちに陳腐化するでしょう。
だから、つねに新しい分野の技術を感じられ、タッチできるところに身をおいていた。
それには、フリーでいるのが好都合なんです』という意見は正しく今後を見据えているといえる。
この方の場合は、そうした技術・スキルがあり、時代もその技術を必要としている。
いろいろな企業にアプローチするにも事欠かないだろう。
独立の話は、その方がその企業の海外本社に飛び、具体的な交渉に入ったことで
一気に話が進むはずだった。

●競合会社への再就職制限・競業企業への就職禁止のハードル

しかし、その交渉で、契約期間が明確になったこと、さらに個人ではなく法人として
契約を結びたいという企業の条件がでて、ひとつの壁にぶつかった。
契約企業の要望は、想定した範囲なので、取り立てて問題ではなかった。

障壁になったのは、前職の企業と結んだ『競合会社への再就職の禁止』契約文書である。
早期退職を企業が進める場合、退職金を割り増して支給する仕組みになっていることが多いが、
その条件として大体一年間の期限限定で競合会社への再就職を禁止することがある。
仕事の内容によっては、理解できることだ。

昨今、元従業員が顧客データや技術データを持ち出し、社会問題になっていることも多い。
企業の防衛策としては精一杯のものだろう。
憲法職業選択の自由がうたわれ、企業と個人の間では弱者である個人に話が優位に進みがちだ。
だからこれ自体は、自然ともいえる。

しかし問題になのは、その『競合会社』が明確にリスト化されていない、
あるいは後でそのリストに追加が出てくることである。
そうなると話は別になる。
合併や提携、新規事業への参入がめまぐるしい時代では、
これは変化することは間違いがない。
しかしそれでは再就職活動には大いに支障が出る。
中高年世代であればそれは間違いなく不利だ。

今回もその心配が浮上した。
競合の定義が明確ではないため、おおよそのリストを作り
前職企業に確認を依頼したのだが、すぐに返答が来ない。
企業にとってはこの判断を下すのは、非常に難しい。
法律的にどこまで制限できるのか。
制限したときに、早期退職した前社員の再就職が不利にならないようにしたい。
もちろん競合会社に即戦力になる人材が加われば、自社の不利になる。
組織としては誰が、何を基準にして判断を下すのか、などなど、
すぐには答えが出ないことも理解できる問題なのだ。

結果的に、この会員は独立をし、技術をさびさせないような仕事を手がけることで
一年の期間を消化し、その後、改めて仕事の範囲を検討することにした。
再就職はほぼないが、事業拡大には取引企業の拡大は重要なポイントだからだ。

教訓だが、
自分のキャリア展開を具体的に描き、それにあった方向選択をすることを心がけること。
そして企業を退職することに決めた暁には
割り増し退職金に条件あるなら、必ずそれがどのようなものなのかを、具体的に双方が確認をしておくこと、だ。

しかしこれは若いうちからやっておくことが大切だ。
これは、いまこうしたキャリア支援をしている自分にとっても大きな反省になっている。
しかし同時に、今からでも決して遅過ぎることはないとも思っているのだが。

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