佐野真一『戦後戦記』を読了して。

今朝、佐野真一の『戦後戦記』を読み終えた。
この本はダイエーの創業者だった中内功の死以降、彼の行動、功罪をテーマにしている。
著者の佐野真一はすでに『カリスマ』で25年かけて中内功をテーマに書いているというが、この本はその続編といえる。

現在のダイエーはすでに中内のつくったダイエーではない。
彼の死に際しても、現ダイエーは社葬すらしていない。
再生機構が主導権を握り、それまでまったくダイエーに関係のなかった経営陣が占めている現在では、
それは同じ名をなのっているものの、まったく別の企業といっていい。


この本で佐野は、中内の原体験は、生存率30%といわれたフィリッピンルソン島の体験にあると喝破している。
中内はここで、この戦いの中で最も怖かったのは米軍の弾丸ではなく
『隣にいる日本軍だった』といっている。
うとうとでもしようものなら、殺されて食われてしまいかねないという、人間としての存在を維持できるかどうかの
ぎりぎりの状況をここで体験した。
そして日本国政府から食料も弾丸もすべて放棄され、そこで戦闘している存在をみはなされたという
国への不信感。全滅、すなわち玉砕を前提にした国の棄兵を体験した。

こうした死ぎりぎりの体験が、その後の価格破壊、松下という巨大企業との戦い(値決め権の獲得争い)や
土地を買い取りその含み益を元に拡大していった思想、
忠実屋など中堅スーパーを買収し続け、ついに日本一の流通業にまで駆け上った貪欲なエネルギーに現れているという。
佐野はこれを『餓鬼』と呼んでいる、食べても食べても腹がすき、食い飽きることはない性である。

これは一方で、阪神神戸大震災の際に見せた、ダイエーの水際立った救援作業にも現れているという。
国など頼っていられるかという確信は、当時の村山政権だらしなさと対照的に鮮やかだったことは確かだ。
被災者のライフラインを死守し、ローソンでは24時間中、煌々と明かりをともし、
人々に安心感をもたらした功績は、国の対応のまずさに比べ、徹底していた。

当時、わたしはまだダイエーグループだったCVS・ローソン関係の仕事をしていて、
そのときの被災地の状況は、神戸に派遣したメンバーからも聞いいた。
まさしく『地獄のような有様だった』という状況の中で、中内は獅子奮迅の働きをした。

さらにそれだけでなく著書『わが安売りの哲学』で述べていることは、戦後の日本経済の成長にあって、
正しくその方向を示したものとして、高い評価を得ている。
モノがない時代から、欲しいものはどんどん安く手に入れられる時代にかけて、
それは多くの消費者の支持を獲得した。

しかし、最終的に中内ダイエーは消滅し、中内功やその子息の財産もほとんど銀行にむしりとられたという。

その詳細はここではとても紹介できないが、
それにしても戦後日本の最大の成功者といわれる中内ダイエーのスケールの大きさ、
そのエネルギーと、それを消滅させた原因そのものが、同じフィリピンでの体験に根ざしているとしたら。
人間の経験とそれが形成する価値観、人生観へ及ぼす影響力の大きさを考えずにいられない。
言い方を変えれば、これは恐怖ともいえる。

キャリアカウンセラーは、クライアントの生きてきた時代背景も確認しながら、
そのよりどころにしている価値観や人生観を理解するようにしている。
対象であるクライアントのバックグランドを理解し、行動の方向性、判断基準を理解することによって
クライアントが納得できる支援をするのだ。


それでは、当のカウンセラーの価値観や考え方、行動は、きちんと整理されているだろうか?
この本を読んでいて、最近、身近なところで起きたトラブルを思い起こさずに入られなかった。
もっともこの場合は、数人に聞いても首をかしげるような行為があったのだから、
それほどオーバーな話ではないのかもしれない。
しかし、カウンセラーの人生観、価値観は、あまり省みられることはないだけに、
相当な影響力をはらんでいる。

まず隗からはじめよ。
自らの基準は本当に正常だろうか?

※自分の価値観、人生観を整理したいと思ったら
http://www.goodcareer.jp