サンデープロジェクト:資生堂

今日のサンデープロジェクト
経済ジャーナリストの財部さんが資生堂を紹介していた。
長い間、同族経営が続いていた資生堂社長は
ここ何代か、血縁のない社長が誕生している。


売店にある不良在庫の一掃。
早期退職の実施。
この二つはメーカーであることと
人を大事にする企業としての老舗にとっては、
伝統やイメージを覆しかねない重大な施策だが、
それゆえに同族出身のトップが踏み込めなかったものであり、
しかしどうしても避けられないものだった。
これを非同族の社長が着手した。


そして次は、美容部員のノルマの廃止だ。
これにはとても興味を持った。
資生堂の美容部員は
良家の子女を採用し、美術からマナーなどの幅広い教育を施して、
日本における美容、化粧の伝道師としての役割を担っていた。
それはもちろん今日にいたるまで脈打っている伝統だが
一方で会社の業績をあげるために、販売ノルマが課せられるようになっていた。


現社長が、美容部員の仕事を学んでいた時に、
彼女立ちの間での話題は、販売ではなく、
顧客の感謝、喜びの言葉だった。

ノルマは業績を上げるのには確かに有効な面がある。
しかし仕事がどのようなミッションを持っているかを理解している職場では
その使命感を低下させかねない『麻薬』のようなものだ。
ノルマを課すと、今度はそのノルマを廃止することができなくなる。

使命感、誇りだけでは業績に結びつかない、そのように考えがちだ。
だからそれと共存させるようにノルマを課したものが、
それゆえに顧客へのサービスがおろそかになる可能性を高めている。

それでも業績が上がらないとしたら。
またさらに高い売上を欲したとしたら、
『ノルマ』は、もはや本来のミッションや誇りを高め、
維持することはますます難しくなっていくだろう。


ノルマを廃止したら、業績が落ちる。
その不安や反対意見は、実は本質的な目的を忘れている。


しかし資生堂の現社長はノルマを廃した。
そして顧客のアンケートによる満足度を美容部員の評価に置き換えた。
これが本質的な事業、そして職業のモチベーションにつながることは間違いない。

数字の業績向上は必要だが、それを目指す以前に
まずこの仕事は何を目的にしているのかが確認され、評価されるしくみと風土がなければならない。

これは理屈では実に考えやすく理解しやすいことだが、
実際にはなかなかできない経営判断だ。
これは資生堂の伝統があったからこそできたのだろうか?

ドラッカー
『企業の究極の目的は顧客を創り出すことである』と指摘しているが、
顧客を創り出すアプローチはいくつも考えられる。
しかし少なくとも『売上数字の拡大』は、それらの活動の結果のワンオブゼムに過ぎない。
それは目的ではなく結果だから、
本来、結果に向かって社員が意識を高め行動することはない。
本来の顧客満足こそが目標であり、
数字はそれについてくるひとつの果実に過ぎない。
もちろん、それは重要な果実であることは間違いないのだが、
すべてではない。

資生堂の決断は、
あらためて企業の事業目的やマネジメントについて
大きな波紋を投げかけたような気がする。