得意分野でこそ、慎重になれ

先日、経理財務のキャリアを持つ方の再就職が決まった。
高校卒業後、商業、工業簿記とも一級を取得し、
改めて50歳を過ぎたいまから税理士の資格取得を目指す方だ。

外見も若々しく、
今までの自分の仕事に誇りと自信を持っている。
話し方もはっきりしていて、曖昧さを残さない。
ある面で、聞いているほうは押し込まれるような圧迫感を感じる。

面接での評価は高く、
むしろ企業側でその方のキャリアや迫力あるお人柄に圧倒されるきらいもあり、
高い評価にもかかわらず、いい結果に結びつかない感じもしていた。

仕事は安定したところで、同じような仕事を続けるよりも
むしろ未完成で乱雑な状態のものを、整然とさせていくことに
やりがいを感じていらっしゃる。
英雄、乱を好む、のようなところは、力を持て余しているともいえる。

この方の再就職の決定先は
設立3年ほどの同族企業。
役員には同じ苗字の名前が並び
意味不明の関連会社もある。
事業内容は、いまはやりの健康関連商品。
業績はまだたっていない。

そうしたところに魅力を感じたのは
こうした好みが背景にあったからに他ならない。

しかし、実際に内定が決まり、待遇条件を聞き、
さらに詳しく事業内容を確認していくにつれ、不安が膨らんだ。
実態がつかめないのだ。
資料もあるのかないのか、なかなか依頼したものが出てこない。
『もしかしたら失敗したかもしれない』という反省の言葉が出てきた。

経営は数字がつきものだし、
商品・技術力や販売、そして事業計画がしっかりしていなければならない。
それに資金計画がしっかりと絡み合っていることが必要だ。
そして、おそらくそれは誰が見てもわかるような明快さを備えていることが問われる。

このことは、経理財務のベテランにとっては、
きわめて明確なことのように思える。

だが求職者という不安なポジションにいると
本来の自分の強みを発揮することよりも
まず内定を獲得する、安心することを優先してしまうことが大いにある。
これが、実はもっと注意すべきことと思われる。

さらにいえば、自分のキャリアに自信があればあるほど、
『自分ならなんとかできる』という自信が、冷静な判断を鈍らせてしまうことも考えられる。
そうなると、いままでのキャリアを積み上げてきた環境や時代との違いを、確実に分析したかを
常に問いつづける必要が出てくる。
求職者の立場は、その根気も弱めてしまうようだ。

自分の強みをきちんと把握することは、
どんな時にでもその経験や知識を動員して
十分な分析と判断に結びつけることができなければならない。

得意分野こそ、いかなるときも全力をあげて力を総動員すること。
上手の手から水がもれる。
これはやはりあることなのだと思った。


⇒いつも一人で考え判断するのは難しい。客観的なサポートが必要になったら。
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