マーべリックで戦略を鮮明にする

『マーべリック・カンパニー』という本を読み始めている。
『マーべリック』というのは独創的な、という意味。

独創的であることは
既存の考え方の側から見れば、奇抜で常識はすれとみなされる。
それがうまくいっていなければ、ただの突飛さで終わるのだろうが、
実はそれが業界の常識を覆して、それこそ常識はずれの業績を上げているとしたら。

それはやはり真摯な気持ちで注目する必要があるだろう。

この本はベテランジャーナリストが、そうした常識破れで成功している企業を取材し、
その本質に迫った本だ。
それだけでも読む価値があると思う。

このアプローチは、以前に話題になったビジョナリ・カンパニーと似ている。
ビジョナリ・カンパニーはその後シリーズを重ね3冊出ていると思うが、
ベンチャー企業の若手の社長をはじめ愛読している経営者も多く、
今も話題になっている。
もっともブックオフなどの古本屋では100円から200円で、美本が出ているのを見かける。
いまなら評価が定っていてなおかつ手軽に手が出せる本としては
お買い得だろう。

さて。


アメリカ国民を貯蓄へと立ち返らせること』を目的とするINSダイレクト

例に取り上げられているINSダイレクトはインターネットをメインの手段として顧客とじかに取引をする貯蓄銀行で、スピード、簡潔さ、諸経費の低さに重点を置いている。
それは従来型の店舗を持たない、ATMもない、高給取りの銀行員も口の達者なファイナンシャル・プランナーも、顧客が払う手数料も最低預金残高も大量の書類も、複雑な商品パッケージも持たない。それらによってコストは既存型の銀行に比べ1/6。これによって預金者には高い金利を保証する(基本的な貯蓄商品の金利は業界平均の4倍に達している)。住宅ローンはより低い金利を提供している。
この結果、毎月オンラインを通じて新規顧客が10万人、10億ドルの預金が集まっているという。
しかし注目すべきはこの成長力だけではない。
INSダイレクトは何よりもアメリカ国民に貯蓄へと立ち返らせることを目指している。
その目標があるからこそ、それに反したり不要と思えるサービスには手を出さないのだ。
どんなビジネスチャンスを追わないのかについて、厳しく峻別をしている。
それは自社のビジネスモデルに合わない顧客をさえ例外ではない。毎年3500名を超える顧客のくびを切っているというのだから、徹底している。

同じ基準で同じ方向を目指す競争は、成功を本当にもたらすか。業界全体が不況の時に、なぜそのように同じことをするのかがわからない、というINSダイレクトの発言は、こうした実績を目の前にしてはうなづかざるを得ない。

この例だけでなく、『マーべリック・カンパニー』はいくつも紹介されている。
サウスウエスト航空は、一率料金、フリーシート、飲食のサービスなし。
ただ従業員のサービスは極めてフレンドリー。
 業界の主流であるハブ・アンド・スポーク方式(車輪のハブに当たる拠点空港を中心に、そこからスポークのように伸びる路線で多くの中小地方空港を結ぶ方式)に対してポイント・ツー・ポイント方式(比較的短距離の拠点空港を直接結ぶ方式)。マイレージ・サービスに加わったのは、最後。
そのどれもが、業界の常識に反するものだ。

サウスウエスト社が目的としているのは“空を自由化する”ということ。
それまで裕福な人々に限られていた空の旅を、平均的なアメリカ人に簡単に利用できるものにするというものだ。
サウスウエスト航空では、自由は私から始まる』これがスタッフたちを結ぶフレーズだ。

業界のポジション、提供するサービス、常識を見直すこと。
顧客に何を提案すべきかがはっきりしていること。
これは業界の常識、あるいは業界の競争ルールと大きく異なっていることが多い。
独自の制度、言葉を持っていること。
これは仕組みと言ってもいいかもしれない。
要は従業員ひとりひとりが自分の企業が顧客に提供すべきサービスを理解し行動していることを表す。従業員表彰や、盛り上げ方にもこれは現れてくる。
企業内の人材、才能、アイデアだけに頼らず幅広く社外の才能をも取り込む。
そのための仕組みを考えられること。
それには参加者の共感を呼ぶテーマがでなければならない。
そのためには企業が持っている情報やノウハウを公開しなければならないし、
そこから生まれた成果を、自社内で独り占めにせず、参加者の名誉を高めるために
幅広く業界の名誉を獲得できるようなスタンスをもつこと。
参加者の自由を尊重するマネジメント。

業界というより企業を再定義し、存在する業界の常識やルールに制約されず、
自社が求めるものに合致したサービス、風土、制度、信念を確立する。
これはビジョナリーカンパニーと通じている。

業界のほかの企業と同じルール、戦略で競争していたら、
業界そのもの、業界全体が抱えている問題は解決できない。
もし業界全体が縮小していたら、同じ結果しか出てこないはずだ。

こんな考え方だ。




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