その欲望は他者の欲望が伝染したにすぎない

知人で、よく海外に行く人がいる。
悠々自適の生活を送れる条件を備えた人だから、それも可能なのだろう。

自分などはいつもハワイに行きたいと思っている人間にとっては、
羨ましい限りだ。
酒席でもそのような会話が飛び交う。

しかし、それは本当ではないだろう。
僕にしてみれば、寒いのは不得手なので、暖かいところ。
そして海が近い清潔な街であればいい。
最近は台湾が気になっている。
台北は3度くらい行ったので、もういい。
次は台中を密かに狙っている。
数週間前だろうか、女性雑誌で台湾特集を組んでいたが、
その中で台中の緑濃い街並みやカフェ、大学、図書館の写真が掲載されていた。
台北から新幹線で1時間くらいだという。

それなら週末を利用して一日か二日の休暇を取れば十分だろう。

もちろん、行ったことのない国には魅力を感じる。
村上春樹の小説に出てきた北欧も、
開高健が酔いどれたパリやドイツも。

しかし、いざ時間もお金もあったとしても
おそらくハワイを選ぶだろう。

僕の本当の欲望はそういうところにあって、
滅多にいけそうもない、遠いところへいくのではなく、
できるだけ長く腰を落ち着けて、飽き飽きするまで、
無駄な時間を持て余すような、時間を欲しているのだろうと思う。

そして仮に、そういうところへ行ったとしても、
その印象や行動も、空気の吸い方も、他の人とは違うやり方をするのだろうと思う。
なぜなら僕の欲望は違うところにあるのだから。

うらやましいとか、じゃあ今度は僕も行ってみよう、とは
本当のところは思わない。
ただ好き勝手なことをやっていることはうらやましいのだけれども。